田尻の家 2
 
シンプルコンクリート打放し住宅
 
シンプルコンクリート打放し住宅
 
 
 

 
 
 

「田尻の家2」

瀬戸内海を見下ろす丘に建つ農家型住宅の建替えである。依頼者は60代と90代の女性、将来的には離れを建て息子家族が同居し、この場所での生活をさらに引き継ぐことになる。

建替え前は、周囲の家々と同じく、田の字型プランを踏襲した戦後の民家であった。その平面を見ると、表側には客のための座敷と玄関が置かれ、裏側には茶の間や台所が置かれていた。細長い段々畑を使って建てるので、表側に庭とアプローチを確保すると、建物を山側に寄せて建てざるを得ず、使用時間の長い部屋は、裏の石垣が迫る暗く風通しの悪い側があてがわれていた。

設計の主眼は、敷地のあり方の見直しと、農家形式を踏襲したコンクリート住宅の模索である。

敷地は、下段の畑も使用し、なだらかな斜面地に戻した。家の周りに十分な空きを確保し敷地全周に広がり与えた。広い敷地には芝とケヤキを植え緑の丘をつくり「風景の中に建つ家」のような景観とした。周辺の農地には耕作放棄地も目立ってきているので、この畑を取り込んだ敷地のあり方が周囲へと伝搬し美しいランドスケープが広がることを目論んでいる。

農家の魅力は架構と間取りが一体に考えられていて、庇や開口等の架構の構成要素が住環境を制御している単純性にあると思う。この特徴をコンクリートで置き換えようとしたので、全周に開放可能な庇を持つ開放性の高い壁構造を考えた。具体的には放射状に配した壁を、収納や床の間といった「箱」が補完する構造形式である。元々の間取りが3.6m角の2x3=6コマグリッドの構成であったものを、半コマずらし、部屋の配置は表と裏を反転させた。庇は日射を遮り、開口は海と山との間を流れる風を受け流す。

経験にしみ込んだ部屋の大きさやリズムに変化を与えず、外部を常に意識しながら生活できる家へと変化したことと、地域の美観を考えるきっかけをつくることに建替えの意義を見いだした。

(藤本寿徳)

 
 
コンクリート打放しの住宅
 
コンクリート打放しの住宅
 
コンクリート打放しの住宅
photo by Kazunori Fujimoto

 

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