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藤本寿徳

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里山の家の話-1(序)
 福山や尾道からは県北部に向かって国道313、182、184号線などがありますが、福山に来た当初からその国道沿いの農村部、山間部にある集落の美しさに惹かれていました。
 道路の左右の土地の低い部分には水利のために田や畑があり、人は田畑に譲るように1段高く上がった場所に居をかまえます。斜面に建つそれらの農家は周囲の林や畑と一体となった美しい集落の姿をしていて、斜面下の道路からは、それら全てが一体となった美しい住環境が一望できます。
 
 一目で茅葺きと判る急な勾配屋根は今ではトタン張りと姿が変わっていても、とても景色と調和しています。昔、篠原一男が「民家はきのこである」と表現しましたが、まさに自然の中から自然と生えてきたかのような調和を感じます。木造瓦葺き2階建ての住宅の屋根とは違った素朴な美しさを感じています。
 
 農家の周りの雑木林は広葉樹が占め、杉、檜の針葉樹系の植林にはない季節ごとの色鮮やかさを楽しませてくれます。梅雨前の新緑の季節は生命感にあふれています。段々畑の石積みは昔は一つ一つ人の手で積み上げたのだろうと思いますが、古い石積みは苦労や人々の思いが詰まっているからこそ美しく感じます。

 その頃に気付いたことなのですが、家の周囲だけでなく雑木林の足下の雑草刈りがちゃんとされていることに感心しました。自分の敷地内だけでなく、それ以外の場所も手入れがされていることが美しく見える理由です。手入れのされていない荒れ放題の山は美しくないものです。

 県北の山間部出身の複数の知り合いから、山の手入れについてヒアリングしたところ、地域によって呼び名はいろいろあるのですが、「山普請-やまぶしん」という新興住宅地だと溝掃除や公園掃除にあたる地域の住民全員が参加する半ば強制的な草刈り作業があるのだそうです。地域の共同体の力が美しい里山をつくっていることを学びました。
 
 小さい集落を形成しているエリア。なぜか1軒だけが存在するエリア。あの山の上にはどうやって行くのだろうと不思議になるような、険しい山の頂きに点在する「天空の集落」。集落や農村といっても、いろんな集落の形態があります。それらには共通して豊かな土地の「気」を感じさせます。日当りや風通し、山や川との関係から先人達が無意識の中にも選びとってきた土地利用の美しい結果です。

 そんな山の景色を見るたびに、「このような敷地で農家を設計したい。」「茅葺き農家を改築して離れとして現代建築をつくりたい。」というような思いを募らせてきました。
 
 一般的には農家や農村と現代建築はミスマッチと思われがちですが、僕は逆にこの自然や田畑、石積みなどの人々の努力の上にある美しさ、不便さをも巻き込みながら、利便性を追い求め続ける都市部にはない生活の豊かさにあふれた現代建築をつくってみたいと思っています。
 
 もうじき完成する「里山の家-井原」はそんな思いが詰まった家です。そこでは家単体の設計内容だけでなく、敷地にまつわる話も僕にとっては意義深く感じています。
 この「里山の家-井原」の土地の選択はかなり特殊な事例だと思います。僕の理想でもあります。そこで引き続き建設までのいきさつを紹介していこうと思います。

15:35, Tuesday, Dec 18, 2007 ¦ 固定リンク

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